今から遥か昔。
宇宙を旅していた神々が、とある銀河の片隅に位置する太陽系で、小さな美しい惑星を発見した。
紺碧のガラス玉のような、儚げで愛らしい惑星──地球。
彼らはそこが生命に適した環境であることを知り、様々な宇宙の歴史を踏襲した新たなる理想郷を築こうと試みた。それぞれの生まれ故郷である惑星から集めた無数の生命体を、その小さな惑星に移植し増殖させていったのだ。
それと同時に、「新たな人間」を創造しようと試みた。
それは、自分達のように深遠なる智慧と繋がることなく、切り離された中でも自らの体験と想念と自由意志によって成長する「自我」を持つ存在。
その存在は、地球の環境に馴染むよう移植された生命体のDNAを操作することによって産み出されることとなった。
しかし、生まれたての太陽系は決して安定していなかった。
様々な天変地異が起こり、ガラス玉のような美しい惑星も何度も死に瀕することとなった。そのたびに神々が生み出した新たな人類も、苦難と試練を強いられた。
やがて、太陽系が落ち着きを取り戻した頃。
神々は、宇宙を支える掟を守る為、この惑星を「去った」。
その掟とは、
「関与した惑星に生まれた人々が、自ら成長し、自らの意志で真理に到達するまで、介入してはいけない」という掟。
神々が去った後。
地球に残された人々は、何故神々は去ったのかと嘆き悲しんだ。
冬枯れの木立のような淋しさと孤独感を抱きながらも、人類は自らの手で文明を切り開き、時代を作り上げていった。
しかし、何度も繰り返された天変地異や自然災害は人々の心に「恐怖」を植え付けていた。そして、恐怖故に盲目になった彼らは自分達を「孤独な生き物」と認識し始めた。
精神の奥深くに眠る彼らの傷は、「物質的なエゴイズム」によってかき消され、神々は語り継がれるだけの存在となり、その結果、人間に利用される産物と化し、人間は自らを頂点に据えて暴利を貪るようになっていった。
母なる惑星である地球の資源を枯渇させる程にまで吸い尽くし、地球が守り切れない程の数にまで増え続け、自分達と共に生きる生命を軽んじた人間たちは、その野望を他の惑星侵略へと向けようとしていた。同じ太陽系内にある惑星を、自分達の植民地にしようと企てた、その時。
──再び、悲劇が起こった。
それは、人間が引き寄せたものだった。人間が自らの野望を宇宙空間に充満させた結果、「起こり得ない運命」を自らの手で引き寄せてしまったのだ。
小惑星との衝突。
決して軌道を交えないはずの小惑星が大きく進路を変更し、地球に衝突することが判明したのだ。
優秀な科学者達の試行錯誤により、衝突は「接触」に留められたが、その結果、月は形を大きく変えてしまい、月の軌道が狂ったことから地球にも多大な影響が起こり、太陽と絶妙なバランスをとっていた角度が揺らぎ、地軸の移転が起きてしまった。それは、地球が誕生して以来初めてといえる程の大打撃であり、悲惨な出来事でもあった。
地球に起きた惨劇を、神々はすべて見ていた。
神々は「去った」のではなく、いつでも彼らのそばにいて、状況を見守っていたのだ。
神々は地球を救う為に苦心した科学者達や出来得る限りの人々を救出し、哀れな惑星が再度復活するまで耐え忍んだ。
地球の傷が癒えるまでに、何十年もの歳月を必要とした。
そしてついに、覆っていた雲が消え新たな地表が姿を現した。それはかつてのような五大陸の姿ではなく、大きく分かれた二つの大陸のみの姿へと変貌した予想だにしなかった地球の姿だった。太陽と絶妙な感覚を維持していた地軸の傾きが僅か2度ずれたことにより、太陽光が空から容赦なく降り注ぐ極暑な環境が生まれ、反対に太陽がほとんど姿を現さない極寒の地も出来てしまった。大気も薄くなり、人間が暮らせるような環境はごく一部にまで減少してしまった。
しかし、神々は「再度、この惑星を蘇らせよう」と決意した。
そして、「二度と同じ轍を踏まない」と固く心に誓った。惑星を守る為に苦心した科学者や出来得る限り救出した地球人と神々との間に生まれた子供たち──ミハエル、ガブリール、ラフィール、アズライールの四人を、惑星でもっとも環境の良い場所に下ろし、そこに都市を造り、「再び地球を復興させるように」と指示を下した。
ミハエル達4人は、新たな地球の再建に向けて「楽園都市 エデン」を創設した。
そして、そこには神々のDNAが含まれた人々を住まわせるべく、遺伝子操作を繰り返した。自分達四人の血族以外にも、地球を見守ってくれていた多くの神々の子供を誕生させ、エデンにおける人口を増やしていった。
やがてエデンは発展し、この惑星に初めて人類が誕生した時のような黄金時代を迎えるまでに至ることが出来たのである。
しかし──そんな幸せも、長くは続かなかった。
死にかけた惑星と共に生き続けた人々が、エデンの裾野を目指して遥々旅をしてきたのだ。あろうことか、救出された地球人以外に、この劣悪な環境下を乗り越えた人々が存在していたのだ。
だが──ミハエル達は彼ら地球人を、エデンから追放した。「今回の惨劇を生み出した火種を、未だに地球人は持ち続けている」という結論のもとで。
たったひとつの惑星の中で、二種の人類が対立したまま存在することとなった新たなる地球。
遺伝子操作された優秀なアーシアンと、天変地異の後に残された不毛な大地で暮らすかつての人類「ヒューマノイド」には、歴然とした格差が生まれようとしていた。
だが、これが本当の「楽園」と言えるだろうか?
この星にかつてから存在していた人類を、例え争いの火種になろうとも排斥することが正しい道なのだろうか?
そう考えた一部のアーシアンは、自らエデンに反旗を翻し、ヒューマノイドの未来に自由を約束するための活動を始めた。
アーシアンの歴史が始まってから535年後。
遺伝子操作ではなく、完全な「人造人間クリティカン」として誕生した少年サルジェ。
これは、彼が誕生し、彼を誕生させた人々の思惑や希望に翻弄されながらも「『自分の人生を生きる』という意味」を探していくための冒険──
否、巡礼の物語である。